複雑にからみ合っているたるみ発生の原因
たるみが発生する原因には、皮膚の衰え、皮下脂肪のゆるみ、筋膜のゆるみ、筋肉の衰え、骨の萎縮など、さまざまな要因があり、年齢を重ねるにつれてそれぞれが複雑にからみ合っていきます。どのような過程でたるみが発生するのか、組織ごとに見ていきましょう。
皮膚
皮膚は表皮とその下にある真皮で構成されています。
表皮は、体の一番表面にあるとても薄い組織です。特に顔の皮膚厚さは薄く平均して0.2mmほど。そして肌の新陳代謝が行われるのもこの表皮の部分です。表皮の一番底にある基底細胞では新しい細胞が作られ、徐々に上へ上へと押し上げられます。肌表面に到達した細胞は核を失って角層となり、最後には垢となって剥がれ落ちます。これが肌のターンオーバー(新陳代謝)です。
20代では、ターンオーバーの期間は4週間から6週間ほどと言われていますが、年齢とともにターンオーバーの力が弱まり、期間も長くなります。それによって表皮の萎縮が起きたり、角質の肥厚(厚く溜まること)が起こり、肌をくすませしなやかさを失わせます。
真皮は平均で2mmほどと表皮よりも厚みがあります。そして真皮を構成するのは、肌のハリや弾力を支えるコラーゲンやエラスチンなどの繊維状のタンパク質と、水分を抱えるヒアルロン酸などの基質、それらを作り出す線維芽細胞(せんいがさいぼう)です。加齢にともなってコラーゲンやエラスチンの減少と劣化が起こり、ヒアルロン酸も減少。線維芽細胞の働きも弱まります。皮膚組織を支えられなくなり、弾力やハリが低下し、肌のたるみが発生します。
また、加齢よりも大きな影響を与え、真皮を劣化させてしまうのが紫外線です。紫外線によるダメージは少しずつ蓄積していき、10年後、20年後の肌にたるみやシワとなって現れます。
皮下脂肪
皮下脂肪も加齢にともなってゆるみ、重力によって下へとたるみ始めます。
さらに、頬の中心部やこめかみ、まぶたの脂肪は減少する一方、口元やフェイスラインの脂肪は肥大化。肌の表面にゴルゴラインやほうれい線となって現れます。
顔の上部から下垂してくる脂肪と、肥大化する下部の脂肪によって、シャープだったフェイスラインはたるみ、丸みを帯びていきます。さらにたるみと肥大化が進行すると、フェイスラインはスクエア型となり、顎下にも脂肪がついて首との境目が不明瞭になったり、口角の横からアゴ方向に向かって伸びるマリオネットラインも現れます。
筋膜・筋肉
顔には数十種類もの表情筋がありますが、他の筋肉と同様、よく使う筋肉は肥大し、使わない筋肉は萎縮します。あまり笑わない人は、よく笑う人に比べて、口の周りの表情筋を使わないため、口角がへの字型にたるみやすい傾向に。ただし、眉間にシワを寄せてしまってばかりでは、眉間の筋肉が肥大して縦ジワや溝を作ってしまいます。
表情筋は、その上にある皮下脂肪や皮膚を支えていますが、表情筋もまた年齢とともに衰えます。表情筋が衰えると、皮下脂肪や皮膚を支える力も弱まり、顔のたるみへとつながります。
また、皮下脂肪と表情筋は、筋膜でつながっています。表情筋とつながった筋膜のことをSMAS(superficial muscular aponeurotic system:表在性筋膜群)といい、このSMASも加齢とともに衰えてゆるみ、たるみを発生させることがわかっています。
骨
骨は顔の土台です。骨もまた、老化によって骨密度が低下し、萎縮します。骨が萎縮することで眼窩(眼球の入っている穴)が広がり、目は後方に落ち込みます。特に顔の下半分、上顎と下顎の骨密度は減少しやすいと言われています。骨密度が下がって上顎や下顎が萎縮してしまうと、骨の上にある表情筋、皮下脂肪、皮膚の全てがたるみ、ほうれい線やマリオネットライン、フェイスラインのたるみが顕著になります。
骨密度は40代以降から大きく下がり始めます。
肌にたるみが出来るとフェイスラインはどう変わる?
たるみの発生の原因を組織ごとにみてきましたが、たるみによってフェイスラインは段階的に変化します。どのような段階をたどるのかわかりやすくするために、年齢別のフェイスラインの変化を確認してみましょう。
※肌のたるみ・フェイスラインの変化には個人差があります。
①20代のフェイスライン
20代でフェイスラインの変化を感じることはまれですが、20代半ばにはコラーゲンやエラスチンの減少が始まり、肌内部では少しずつたるみが始まります。20代とはいえ、肌が乾燥したりターンオーバーが乱れると、肌の不調を感じることもあるでしょう。また、無防備な日焼けはシミだけでなく、将来のたるみの発生、そしてフェイスラインの変化に影響を与えます。たるみを予防するためにも、保湿ケアや紫外線対策を徹底するのはもちろん、20代後半からはエイジングを意識したケアについても考えるようにしましょう。
また、急激なダイエットによる体重の減少とリバウンドによる体重増加を繰り返してしまうと、太った時に伸びてしまった皮膚が痩せた時に元に戻らず、20代とはいえ肌がたるみ、フェイスラインが下がってしまうことがあります。無理なダイエットは禁物です。
②30代のフェイスライン
30代に入ると、コラーゲンやエラスチンの減少スピードが早まります。また、皮膚だけでなく、皮下脂肪や筋膜・筋肉も徐々に衰え始めます。とはいえ、30代前半ではまだそれほどたるみも発生せず、フェイスラインの変化も少ないでしょう。しかし、30代半ばを過ぎた頃には、ほうれい線が現れたり、皮膚や毛穴のたるみなどのエイジングサインに気づく人も増えます。目の下にゴルゴラインが現れ始め、フェイスラインが徐々に下がって丸みを帯びたりぼやけたように感じる人も出てきます。先を見据えたエイジングケアへの取り組みが必要となる年代です。
③40代のフェイスライン
40代は、さらにコラーゲンやエラスチンの減少スピードが加速。頬の皮下脂肪の減少と衰えが進み、同時に顔面下部の皮下脂肪は肥大化し始めます。筋膜・筋肉もさらに衰えるため、ほうれい線は伸びて深くなる傾向にあり、おでこのシワやまぶたのたるみ、目の下のゴルゴラインが顕著に現れる場合も。皮下脂肪の下垂により、あごの周りなどのフェイスラインのたるみはが徐々に横にも広がり始めます。
骨密度の減少が始まる年代に突入することから、たるみを進行させないためには、皮膚、皮下脂肪、筋肉・筋膜、骨と、全方位を意識したエイジングケアを行う必要があります。
④50代のフェイスライン
50代に入ると、残念ながら皮膚の弾力の低下はさらに進みます。更年期にともなうエストロゲン(卵胞ホルモン)の減少も、コラーゲンや骨密度の減少スピードを加速させます。ほうれい線やマリオネットラインはより深く長くなり、眼窩も広がって目が落ちくぼむなど、見た目の老化も進行。脂肪の肥大化とあいまってフェイスラインがスクエア型にたるんできたり、二重アゴや首のたるみも目立つようになります。
このようなフェイスラインの変化を改善することは、日常のケアだけでは難しいのも事実ですが、美しく年齢を重ねるためにも、保湿ケアや紫外線対策は引き続き徹底しましょう。バランスの良い食生活を心がけ、骨密度の減少を防ぐためにカルシウムとその吸収を助けるビタミンDを多く含んだ食品を意識して摂取することも大切です。
⑤60代のフェイスライン
60代に入ると、さらに肌の弾力が低下し、そして皮膚も薄くなります。シワやたるみだけでなく、シミもほとんどの方に見られるようになります。筋膜・筋肉も衰え、骨密度の低下によって骨の萎縮も進むため、ほうれい線はより深くなり、口角も下がってへの字型に。フェイスラインもさらにたるんで、アゴと首の境目が不明瞭になるケースも。
またこの年代は、骨粗鬆症を予防するための対策をしっかりと行うことが大切です。顔の土台である骨が弱まるとその上にある組織もたるむからです。骨は刺激を与えることで骨細胞が活性化し、骨密度の低下を防ぐことができます。ウォーキングなどでかかとから刺激を与えるだけでも十分効果があります。
フェイスラインのケアについて
肌のたるみによってフェイスラインがどう変化するか、年代別にご紹介してきました。
実は、フェイスラインのたるみは気になりながらも、何らかのケアをしているという方は少ないそうです。また、ケアを行っている人でも、効果的なケアができているかどうかわからない、あるいは効果を感じていないという人が大半を占めています。
ここまで見てきたように、たるみによるフェイスラインの変化には、皮膚だけでなく皮下脂肪、筋膜・筋肉、骨といった、体のいくつもの組織の老化が関係しており、年齢によって進行度も違います。
いったん進んでしまった老化は、簡単には戻りません。自分でフェイスラインのケアを行ってもあまり効果を感じないという人が多い理由は、正しいケアができていないという可能性もありますが、やはり肌のたるみの本質が老化にあるからでしょう。
たるみ予防のためにできることは、適切なスキンケアと紫外線対策を行い、美容を意識した食生活、質の良い睡眠をとるといった生活習慣を整えることなど、美容の基本そのものと共通しています。
こうした美容の基本を踏まえた上で、次の一手を考えてみることにしましょう。ただし、間違ったマッサージなどは皮膚や筋肉を傷つけてしまい、逆効果になってしまう場合もあります。
肌のたるみは治療できる?
肌のたるみは治療できるのか、気になっている方もいらっしゃるかもしれません。
美容医療には、シミやシワといった年齢肌のさまざまな悩みを改善するための治療が提供されています。そしてもちろん、たるみの治療も行われています。
たるみ治療にはさまざまな治療法がありますが、代表的なものには以下のようなものがあります。
ケミカルピーリング
酸性の薬剤を使って表皮の上層部に蓄積した古い角質を剥離させ、肌の生まれ変わりを促す治療法。肌がなめらかになり、コラーゲンやエラスチンを増加させて肌の弾力を取り戻す効果も期待できます
光治療(IPL治療)
光治療は、IPL(intense pulsed light)という幅広い波長を持つ特殊な光を肌に照射する治療法。シミやソバカス、くすみや赤みを同時に改善することができ、真皮の線維芽細胞も活性化させ肌のハリを蘇らせる効果も期待できます。フォトフェイシャルとも呼ばれ、幅広い年齢の方に人気のある治療法です。
ヒアルロン酸注入
たるみの気になる部分に、ヒアルロン酸を注射によって直接注入する治療法。もっともポピュラーなたるみ治療のひとつだと言えます。肌を内側からふっくらとさせることができ、施術時間の短さ、安全性の高さ、そして安定した効果がが得やすい点も人気の理由です。
レーザー・RF波(ラジオ波)・超音波など医療機器による治療
美容医療では、テクノロジーの発達とともにさまざまな医療機器を使った治療が行われています。
たるみ治療で使われるレーザーやRF波は、肌に照射することでその熱作用により真皮にあるコラーゲンを収縮させ、肌の引き締めを促します。コラーゲンは収縮したまま再生を繰り返すため、持続性もある治療法です。レーザー治療には、YAGレーザーを使ったジェネシスやピコレーザー、近赤外線を使ったタイタンなどがあり、RF波ではサーマクールがよく知られています。
また、コラーゲンを熱によって収縮させるという原理は同じながら、筋膜(SMAS)にまで熱量を届けることができ、より深層からのたるみ治療を可能としたのが、HIFU(ハイフ:高密度焦点式超音波)による治療です。アメリカのFDAによる認証を受けているウルセラは、一部のクリニックで導入が始まっており、高い人気があります。
スレッドリフト(特殊な糸を使ったリフトアップ)
スレッドと呼ばれる特殊な糸を皮膚の下に通し、たるみを引っ張り上げる治療法です。皮膚を切ったりせず、専用の針で糸を注入するため、ダウンタイムが少なく、フェイスラインを自然に引き上げます。
現在では体内で溶けて吸収される糸がよく使われています。糸が溶けた後もコラーゲンの増殖が続き、効果も持続します。
・フェイスリフト(外科手術でたるみを除去する)
顔の目立たない部分を切開してたるみを取り除く、最も強力なたるみ治療法が、外科手術によるフェイスリフトです。内視鏡を用いた治療法や、筋膜(SMAS)まで引き上げる治療法などさまざまな治療法があり、部分的なものからフェイスライン、そして顔全体のリフトアップまで、たるみ度合いに合わせた治療が行われています。たるみを大きく改善する効果が期待でき、効果も持続する治療法ですが、入院が必要なケースや、傷跡が残ったり神経損傷のリスクも伴います。
〈最後に〉
肌にたるみが出来ることによるフェイスラインの変化と、たるみ治療について取り上げてきました。
たるみの度合いやフェイスラインの変化は、見た目年齢に最も大きく影響するポイント。多かれ少なかれ誰にでもたるみは起きますが、その発生の原因はいくつもの組織が関係していて複雑です。まずは、肌をたるませないためにできることを習慣化するようにしましょう。
そして、最新の美容医療には、さまざまなたるみの治療法がありますので、たるみを改善したい方はこうした治療を検討してみることもおすすめです。
今回は、薬剤や医療機器を用いた治療から、メスを使った外科的な治療までご紹介しましたが、美容クリニックにはこれ以外にも多種多様なたるみ治療があります。自分にとってどれが最適な治療法なのかを見極めるためにも、専門的な知識や技術はもちろん、豊富な治療実績があり、そしてしっかりと相談ができる医療機関を選ぶようにしましょう。